FC2ブログ

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

11/23の星井美希オンリーイベント「そこの人、ハニーなの!」にて発行した小説のサンプルです。冬コミにも出させていただくことが決定しましたので、気になる方は是非足を運んでいただければ幸いです。


20101115003320503.jpg


 ミキキス~星井美希を拾った青年の話~


 復讐をしよう。伊坂が決意したのは、猛暑が過ぎ去った夏の終わり頃である。
 伊坂という男は、総じて人生の全てを否定され続けて生きてきた。
 父は優秀な男だったが、女癖が悪く、伊坂が小学生の頃に不倫相手と行方を眩ませた。母は、家族の反対を押し切って父と駆け落ちした名門の箱入り娘であり、そんな女性が一人で子供を養うだけの術を持っているはずもなく、父の失踪からしばらくして伊坂の前から姿を消した。伊坂は両親に捨てられて育ったのだ。
 その後の生活は酷い有様だった。ゴミ箱を漁った経験も一度や二度ではない。親戚を転々としながら、自分の食い扶持は自分で稼がなければならない荒んだ生活を送った。
 楽しいことなんて何一つなかった青春時代。結果、フリーター生活に甘んじ無駄に命を繋いでいる社会の底辺こそ、伊坂という男の全てだ。
 碌な学校にも通えず、友人すらいない真っ暗な人生を歩んだ伊坂が、自分をこんな人生叩き落した最初の原因である父に復讐しようと考えたのは、ある意味当然の帰結であろう。
 親戚の伝手を辿りようやくの思いで父の住所を知ったのは、寒さが身に染みる晩秋頃だった。父の所在を知った帰り道、衝動的に新しい包丁を買った。金がないため一番安い包丁しか買えなくて、意味もなく惨めになり、余計に父親への怒りを溜め込んだ。もう我慢ならない、明日にでも憎いあの男に会いに行く。そしてこの包丁で――。
 バイト先のコンビニで最後の晩餐を買ってから帰宅する道中は、土砂降りの雨だった。傘を差し、暗い夜道を一人で歩く。
 と、その途中で伊坂は足を止めた。コンクリの道路に跳ね返る雨の雫。それを辿るようにつと視線を先に向けると、道端に誰かが座っている。こんな雨の中で。
 金色に染めた長髪の女性だった。見る限りではすらりと手足が長く、ラインがはっきりとしらスタイルは男の目線を釘付けにする色香を放っていた。雨に濡れて透けた衣服が余計に艶かしく、一瞬、伊坂は心臓を跳ね上げた。
 が、蹲って顔を俯かせる彼女からは、小さくすすり泣く声が聞こえてくる。家族と喧嘩したのか、あるいは彼氏と別れでもしたのか。身一つで外に飛び出してきたであろう姿に、伊坂は劣情を抱いてしまった。
 据え膳喰わねばなんとやら。あわよくば、という下心がなかったと言えば嘘になる。いや、下心しかなかった。これは童貞の辛いところだ。夢を見る。
 ……もしかしたらヤれるかも。
 廃れた心情から滲んだのだろうか。女性を抱いた経験などないくせに。いや、だから余計になのかもしれないが、復讐に駆られた男は女を犯すくらいの蛮行はしでかす、という半ば自暴自棄な感情が、伊坂を女性に近づけさせた。
「あんた、何してんの? 一人?」
 声をかけると、すっと女性が顔をあげる。
 すると伊坂は少しばかり驚いた。幼い、と思ったからだ。女性というよりはまだ少女と言ったほうが正しいような、あどけなさを残す端整な顔立ちで、その目尻には雨に紛れて大粒の涙が伝っている。高校生くらいだろうか。
 ふと伊坂の脳裏に、自分の真っ暗な青春時代が過ぎって目の前の少女に重なった。涙で目を赤くする少女は、まるであの頃の自分だ。望みもしないのに雨に打たれなくてはならない理由があるのだ、きっと。
 思わず表情を歪めてしまった。――その、次の瞬間の出来事だった。
「プロデューサー……?」
 知らない、たぶん人の名前を少女が呼んだ。伊坂が首を傾げた刹那。
 少女が勢い良く伊坂に抱きつき、その唇を奪った。
「……っ!?」
 キス。そんな、キスなんて。
 心臓がとびきりに跳ね、伊坂の脳内は真っ白に染まった。暗い人生を歩んできた伊坂には、無論、キスの経験なぞ皆無であり、それこそ人生で初めての経験である。柔らかく暖かな少女の唇が己に侵食してくる感覚。酷い違和感、そして――これは快楽か。初めて知る“異性と重なる味”は、ある意味暴力的にも感じられた。
 いきなり何をするんだ! もやもやとした欲情は吹っ飛んで、恥じらいとも怒りともつかない感情が発露し、伊坂は慌てて顔を離す。途端、この暴挙に対する(貞操を奪われたことへの)青臭い憤りに支配され、抱きつく少女にきつい視線を投げた。
 少女は伊坂に視線を向けるや否や、早口にまくし立てる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! 」
 正直、度肝を抜かれた。
 狂ったように吐き出される謝罪。何がどうなっている? 伊坂は肌が粟立つ感覚に襲われて、もしかして面倒なことに首を突っ込んだのでは、と後悔が先立つ。
「な、なんなんだあんた一体!」
「ごめんなさい、ごめんなさいプロデューサー!」
「俺はプロデューサーじゃない! 誰なんだよそいつは!」
 少女の謝罪を一刀両断するつもりで伊坂は叫んだ。すると少女は、ぴたりと口を閉じて目を大きく瞬かせてから、ゆっくりと俯く。
「……そうだよね。プロデューサーは、もう美希なんか赤の他人の方がいいよね」
「あぁ? いや、だから俺はその“プロデューサー”って奴とは別人なの!」
「嘘っ!」
「嘘じゃない! 俺は伊坂って言うもんだ!」
 どんと顔を突き出して吐き出した伊坂は、ほとんど脅すような勢いで少女に言った。そのプロデューサーとかいう、自分の知らない誰かと間違われるのはなんとなく心外だ。そして、なにより誤って手を出してしまった面倒事からさっさと逃げ出したい気持ちが、伊坂の感情を逆立てていた。
 少女は“怖い顔”を素直に恐ろしいと感じてくれたらしく、びくりと肩を震わせて押し黙った。所在なさげに揺れる瞳がしばらく伊坂を見、少女は遠慮がちに口を開く。
「本当に違うの? プロデューサー、そんな顔見せたことないの」
「だーかーらー別人!」
「そう、なんだ。……人違いなの」
 糸の切れた人形みたいに、がくりと力を抜いた少女は何も喋らなくなった。
 今の内にさっさと逃げよう。伊坂はそそくさとその場を立ち去ることにした。明日は父親に復讐しにいく予定だというのに、こんなところで面倒事に巻き込まれるのは勘弁願いたい。
 だが伊坂は勘違いをしていた。
 それは、もう面倒事に巻き込まれているということと、その面倒に首を突っ込んだのは伊坂の方からだということの、二つである。
 少女に背を向けて伊坂は足を踏み出した。
 途端、いつの間にか掴まれていた服の裾がぐっと引っ張られて伊坂は尻から地面に転んだ。
「ねぇ、お兄さん。お願いがあるの」
 なんだなんだ? と顔を上げると、先程の少女がこちらを見下ろしているではないか。
 また肌が粟立つ。こう見えて、自分の予感はよく当たる。それも嫌な予感限定で。
 案の定、少女は虚ろな瞳を向けて“面倒事”を伊坂に投げかけてきた。
「帰るところがないの。お兄さんの家に泊めて」
「はぁ!?」
 唐突な申し出に慌てる伊坂。少女は抑揚なく続けた。
「連れてって来れないと警察に通報する。いきなりエッチなことされたって、警察の人に言うの」
 息を呑む。最後通告なのは彼女の雰囲気で分かった。この虚ろで何をしでかしても不思議じゃない目。先程まで、自分自身がまさしくその目を持っていたものだから、伊坂は逆らうことなどできやしなかった。いたいけな少女の証言と社会の底辺の言い訳。どちらが強いかは明白である。然もありなん。
「泊めてくれるだけでいいの。大人しくするし、あと噛まないよ」
「捨て犬か、おまえは」
 ……ああ、また貧乏くじかよ。
 大きく溜息を吐いて、自分の傘の中に少女を入れてやった。
 伊坂、雨に濡れた少女を拾う。
コメント
トラックバック
トラックバックURL
コメントフォーム













管理者にだけ表示を許可する

FC2カウンター
プロフィール

o-van P

Author:o-van P
 しがない物書き。アイマスとロボットをこよなく愛する人間。どんな時でも仲間を求める習性がある。

ブログランキング&サーチエンジン
アイマス・攻略ブログ
Project・ZEROm@s
検索フォーム
ブロとも申請フォーム
QRコード
QR

Page Top

Powered by FC2 Blog |

FC2Ad

| Template Design by スタンダード・デザインラボ

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。