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Project・ZEROm@s第二弾、原稿。

 尾崎玲子と迷子のたかね


 最近、宇宙人の話題が流行っている。
 どうしてかと言えば、それはノストラなんとかさんの恐怖の大王襲来宣言が間近に迫っていることとか、この時期に便乗してUMA特番を組むテレビ局とか、もしかしたら話題になっているSF映画の影響を受けてのことだとか、おそらくそういうことではない。この周辺に限って言えば確実に違う。
 真相は、ちょうど半月くらい前から、街の至る所で未確認飛行物体が目撃されていることにある。
 つまりUFO。丸い銀色の円盤であるとかそういうもの。中には細くて小さいなりをした宇宙人が乗っている、なんて。想像が堪えない子供騙しな話題を広げるのはやはり子供なわけで。学校では常に宇宙人という単語が飛び交っていた。
 けれどもまぁ、今の尾崎玲子にとってそんなことは二の次である。UFO? 宇宙人? そんなものは絶賛出撃準備中の恐怖の大王と鉢合わせして地球の裏で喧嘩でもしていればいいのだ。
 時は放課後。夏に先駆けた猛暑の中、玲子は一人、学校裏にある林を歩き回っていた。中腰で。
 と言うのも理由があって、下校の際、大事な宝物を失くしたことに気づいたのである。今日は授業で学校裏の林を散策した。きっとその時だと当たりをつけ、こうして探し回っているのである。とてもとても大事な物で、失くすわけにはいかなかった。
 七分丈のデニムパンツに膝まであるワンピース。足にはサンダル。頭の両端で結った髪の毛は、猛暑の前では邪魔以外のなにものでもない。額の汗を拭った玲子はうんと伸びをして、周囲を見渡した。
 「ちょっと奥まで来ちゃったかも」
 それなりの面積を誇る林だが、散策時に通った道から若干外れてしまっていたようだ。通ってもいない道に探し物が落ちているはずもない。戻ろうと踵を返した玲子は、ふと、木々の先に妙なものを見つけた。
 何気もなく進んでみると、そこは一本も木の生えていない、円状に開けた広場のようになっていた。地面も剥き出しになっていて、とても不自然な空間。
 そして、尾崎玲子は立ち止まって目を丸くした。
 何故ならその空間には、一面に何かしらの紋様らしきものが広がっていたからだ。
 ミステリーサークル。真っ先に浮かんだ言葉がそれだった。今まさしく学校で流行っている宇宙人ブームが目に見える形になって現れたかのような、そんな気分にさせるこの光景。しかしながら、玲子が驚いているのはそれだけではない。
 ミステリーサークルの中心に女の子が立っている。
 十歳の玲子よりも更に幼く、身長も胸下程度までしかない女の子。日本人、だろうか。らしき顔立ちはしているが、毛先まで艶やかな銀色の長髪は明らかにこの国の人間ではない。猛暑にも関わらず袖の長いワンピースドレスという姿で、訝しげに目を細めた玲子は、ふと、こちらに首を傾げた女の子と目が合った。
 息を呑む。名だたる職人傑作のフランス人形と言われれば間違いなく信じてしまうだろう美しさに、鳥肌が立った。いやいや人間だよね。首を振って雑念を払うと、今度は、こんなところに一人でどうしたのだろうという疑問が沸いて出た。
 「迷子」
 「えっ?」
 「お迎え来ない」
 静かな声で女の子が言った。ああ、そういうことか。納得する。迷っちゃったのか。疑問がするりと解けた途端、玲子は良心の呵責に悩まされるハメになった。
 自分は大事な宝物を探さないといけない。けれど迷子の子一人置いていくわけにもいくまい。苦い顔になった玲子は、しかし、じっと見つめてくる彼女に心が折れた。小さな女の子を放って置けるほど冷たい人間ではない。
 「じゃあ、お姉ちゃんと一緒にお家の人探そうか」
 「うん」
 「お名前は?」
 「たかね」
 「そっか。私は尾崎玲子っていうの。よろしくね」
 「うん」
 不思議な女の子だなぁ、と目をぱちくりさせた玲子はとりあえず林を抜けるべく、彼女の手を引いて歩き出した。
 背後に残るミステリーサークルの謎を残して。
 とは言っても、一介の小学生には色々限度があるし、こういう時にお世話になるのは基本的に警察である。もしかしたら親御さんも探しているかもしれないし、そうしようと思い至って現在交番の前。M字に眉の繋がった警官にたかねを預けると、玲子は安心して落し物探しに戻ろうとした。すると、
 「玲子、行っちゃうの」
 そう問うたかねの表情に変化はない。声音も一定。感情の起伏が乏し過ぎて、どういう意図の発言か迷った挙句、玲子は、
 「う、うん……。警察の人の方が頼りになると思うから」
 ちょっと素っ気なかっただろうか。少々罪悪感を覚えつつ、バイバイと手を振って交番離れると、さっそく林へ足を向けた。暗くならない内に目的を果たさないと。
 ところが、である。
 しばらく歩いていると、不意にワンピースの裾が引っ張られた。慌てて振り返れば、
 「…………」
 「あれ? たかねちゃん?」
 そこにはたかねがいた。あれぇ? と驚きを露わにする玲子。じっと見上げてくるたかねにたじろぎつつも、追って来てしまったのだなと自己完結して、ちょっと溜息を吐きながら来た道を戻るのだった。
 「玲子、行っちゃうの」
 「大丈夫! この人達に任せればすぐに探してもらえるから!」
 なんだか既視感。いつのまにやらいなくなっていたたかねに、交番の人達は首を傾げている様子だったが、今度は黄色い警官服のかっこいいお兄さんにたかねを任せて、また別れを告げて歩き出し。
 ――不意にワンピースの裾を引っ張られる感触。
 「えっと……」
 たかねである。見上げてくる不思議な瞳。
 まったく、こんなにおかしな話もあるまい。まるで狐に抓まれた気分だ。再三交番を訪れ、戸惑いと憤り半々な気持ちでたかねを預けると、今度こそたかねを預けて林へ向かった。心持ち、早足で。
 ――が、二度あることは三度あると申しますか。この諺を考えた人はきっと自分のような心境だったのだろうと玲子は思い。
 そんな玲子の裾をきっちり握るたかねであった。
 「……分かったよ、一緒に探そうね」
 肩を落とす玲子だった。
 こうなっては仕方がないと腹を括る。探し物か探し者かの違いだ。無事にたかねを親御さんの元に送り届けたら、自分の目的に戻ればいい。我慢という気持ちのバルブを占め直すと、とにかく、人伝いに聞いて歩くことした。
 とはいえ街も広いし、所詮、二人とも子供だ。あまり歩き回れるでもない。たかねに聞いても明確な答えは返ってこないし。というかラーメン屋の看板に夢中だし。お腹が空いているのかもしれないが、それはこっちも同じである。自動販売機みたいに、ボタンを押せば溜息が出た。疲れという硬貨はいくらでも持っていた。
 心の端で自分が囁く。こんな子放っておいて大事な物探しに行こうよ。悪い自分だ。誘惑を回し蹴りで叩き出しながら、玲子は町内を抜けて近くの土手まで足を運んだ。手を翳し、爪先立ちで遠くを見渡す格好をする。
 わんっ! という大きな鳴き声に肩を震わせたのは、その時であった。
 「げっ、野良吉!」
 眼前に現れたのは大きなブルドッグ。野良吉という、保健所も手を焼く有名な野良犬だ。ブルドッグ持ち前の強面に、誰彼構わず吼えまくる性質の悪さは折り紙付きである。
 玲子の額に嫌な汗が滲む。普通なら即座に逃走を図るところだが、
 ……こ、ここはお姉ちゃんらしいところを見せないと!
 背伸びした意地が、唸る敵への敵対心に火をつけ――玲子はすっと視線を細めた。
 全身を脱力し、体内を循環する気に意識を集中させていく。片足を上げ、両手を掲げると、それすなわち戦闘体勢。一見バランスの悪さが目立つが、その実、精孔から溢れるオーラと呼ばれる生命エネルギーが以下略。
 互いを射抜く一触即発の睨み合いが続き、
 「わんっ!」
 「ひうっ! 無理!」
 駄目だった。涙目になって足を振るわせる姿が正直、かっこ悪い。言うな! とセルフでツッコんでみるが、背中から冷たい汗が垂れて余計に惨めである。
 野良吉が一歩近寄って来る。飛び掛ってくる前兆。反射で頭を抱えた玲子が悲鳴をあげそうになった、その瞬間。
 「だめ」
 たかねの声。
 「めっ」
 ぴしっ! と肌を軽く弾く音が聞こえた。玲子は動揺する。何故なら、まさかそれが、たかねが野良吉にくらわせたデコピンの音だと、誰が信じられようか。ましてやあれだけ敵意を剥き出しにしていた野良吉が、子犬みたいにきゃんきゃん吼えながら逃げていくのを目撃したら、尚更呆然せざるを得ないだろう。
 ついとたかねが視線を投げてくる。対して玲子は、
 「す、すごいね、たかねちゃん!」
 感嘆とした息を吐き出しながら、ぱっと花開くように笑顔になる。あの野良吉を追い払うなんてすごい。近所のガキ大将だって逃げ出すのに。
 決めた。ちゃんと親御さんを見つけてあげよう。私より小さい子に助けられてばかりでは駄目だもんね。
 玲子は心機一転、俄然やる気で捜索を再開する。なんだか、この状況を楽しんでいる自分がいたのだった。

                   ●

 「見つからないし……」
 が、結局この様である。
 夕刻も過ぎた。すでに空は夜の帳を下ろして久しい。いくら両親が共働きで遅いといっても、そろそろ帰らないといけない刻限だ。けれどたかねを放ってはおけないのも事実。ほとほと困り果てていると、不意にたかねが空を見上げた。途端、彼女は玲子の手を引いて走り出したではないか。
 「ちょ、ちょっとどうしたの?」
 案外力強いかも。いやいや、そこじゃなくて。成すがままに連れて行かれた先は、最初に出会った学校裏の林であった。例のミステリーサークルは健在。
 「あれ」
 すっとたかねの指先が空を指し、つと玲子の視線もそれを追った。
 刹那、視界が白いペンキをぶちまけられたみたいに、ぱっと明るく染まった。
 突風を正面から叩きつけられ、小さな悲鳴と共に思わず目を瞑る。それが凄まじい光を発する何かだと勘づいたところで、玲子はゆっくり目を開け――それを目撃した。
 「うそ、UFO……?」
 それとしか形容しようのない、銀色で、円形の、見事なそれが頭上に座している。なにこれ映画の撮影ですか。それとも恐怖の大王さんですか。
 あんぐり口を開けて目が飛び出るかというほど見開いた玲子は、ふと、たかねが離れた所、つまりUFOの真下で手を振っているのに気づいた。こちらが口を開く前に、彼女は口元をわずかに吊り上げ、かろうじて笑顔と分かるそれで告げた。出会って初めて見せてくれた、笑顔だった。
 「今日は楽しかった」
 ぺこりと頭を下げ、
 「ありがとう」
 言葉が契機となったのか、あるいは全てが夢であったのか。
 ほんの一瞬。瞬きをする間に。その瞬間に記憶だけ摘まれて持っていかれたかのように。
 次の瞬間、何事もなかったようにあらゆるものが消えていたのだった。たかねも、ミステリーサークルも、未確認飛行物体も、そして――。

                    ●

 「あれ、私、なんでこんなところにいるんだろう」
 壊れたビデオテープみたいに、場面が一個飛んだような心地だった。
 周囲は暗い。林の中にいるのだとまず思い出して、ああ、落とした宝物を探してたんだと遅れて脳が理解する。疲れて寝てしまったのだろうか。もしかしたらもう両親が帰って来ているかも。こんな遅い時間まで出歩いていたのでは叱られてしまう。――フランス人形みたいな女の子が脳裏を過ぎったが、気泡のように消えてしまって、首を傾げた。
 でも、残念だったな。玲子は思う。あれだけ探したのに、結局宝物は見つからなかったのだから。自然と漏れた溜息。落ち込みながら、玲子は林を抜けて帰路についた。
 その道すがら、
 「玲子ちゃん?」
 背後から自分を呼ぶ声。その主は、
 「小鳥さん!」
 音無小鳥。つい先日、アイドルである彼女の歌に聞き惚れた感情が蘇り、玲子は満面の笑みを浮かべた。学校の帰りなのか、校章入りのワイシャツにチェックのスカートという格好で、長い髪を背中に束ねている。
 「やっぱり玲子ちゃんだ。こんな時間まで何してたの?」
 「あっ、それは……」
 思わず言葉に詰まった。宝物を落としたとは言えない。何故なら玲子の宝物が、彼女のくれた髪留めであったからだ。
 色紙のサインと一緒にくれた、鳥を模した髪留め。玲子にとって大事な大事な宝物だった。だのに、それを落としてしまうなんて。
 膝を折り、目線を合わせてきた小鳥に、目が泳いでしまう。なんと謝ればいいのか迷っていると、
 「あ、その髪留め。付けてくれてるんだ」
 えっ、と思わず頭に触れる。硬い感触が肌に伝わって、玲子は慌ててそれを手に取った。
 鳥を模した髪留め。探していたはずの宝物が、手の平に収まっているではないか。
 「あれ、なんで……」
 「ん?」
 「ううん、なんでもないの。これ、大事にしてます」
 そっか、嬉しいな。微笑を浮かべた小鳥に頬が赤くなった。
 「玲子ちゃん、家に帰るところ? もう暗いし、送っていくよ」
 小鳥に手を引かれ、夜道を歩く。
 ぼやけた記憶は、浜辺に描いた絵のように、喜びの波にさらわれて綺麗に流れていったのだった。
 夜空に奔った不思議な光線に、誰も気づきはしない。



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