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 プロローグ


 地球を、落下するドロップ(隕石)の脅威から救う。
 月が崩壊し、ドロップと通称される隕石の落下現象が始まって、すでに百年と少し。ある程度の大きさにもなれば、落下すると街の一つくらいは地図から消えてなくなる。もう一世紀以上の間、人類はいつ落ちてくるかも分からないドロップの恐怖に怯えながら日々を過ごしている。
 故に、世界最大の多国籍企業にして国連からドロップ迎撃の一切を委託されている隕石除去実働組織モンデンキントは、これらの対策に余念がない。各国に置かれた支部の内、日本でもそれは変わらない。
 しかし迎撃任務を、その果てしなく重大かつ困難である任務を担っているのが、まだ十台の少女達だという秘密を知れば、世間は驚きを隠せないだろう。批判もあるだろう。なにより本人に、自分のみならず多くの命を背負う覚悟があるのか。
 無論、それを承知の上で“私”はここにいるのだ。
 漆黒の宇宙と散りばめられた幾千、幾億の星々輝きを眺めながら、ふと、彼女は思った。
 視界いっぱいに広がる黒色の中に数多の光が輝く光景は、いつ見ても神秘的で壮大だ。いや、壮大で片付けるにはスケールが大き過ぎる。
 月の崩壊から一世紀の年月を越えても、宇宙にとってはほんの一瞬に過ぎない。あの星の輝きでさえ、目に映っているのは何十年も何百年も前の光だ。光が届くまでの時間が生物の寿命を遥かに凌駕するほど、宇宙は広大かつそして無限である。
 ……綺麗、まるで吸い込まれそう。
 幻想的な光景に息を呑み、筆舌し難い心情になんとか感想をこぼした。何度も見た光景だというのに、いつも圧倒的な情景に心奪われる。
 球状の密閉空間の中に彼女はいた。彼女の座る席を中心に広がる機械の群れ。一対の操縦桿とフットペダル、大小複数のモニターに、それらを含めた様々な機器。ハイテクの粋を凝らした空間は、けれども狭苦しいとは感じない。重力から開放された中で、彼女の長い髪がゆったりと踊っている。
 うっとりとした表情で、モニター越しに宇宙を眺めていた彼女の耳に、スピーカーから呼びかける声が届いた。
 『そろそろ肉眼で確認できる距離よ』
 「了解……。こちらでも確認したわ」
 モニターは前方から飛来する巨大な異物を捉えていた。更に拡大された映像が表示され、その詳細が露わになる。
 それは巨大な岩塊。凹凸の激しい、果たして球体とも立方体とも区別できないそれの正体こそ、ドロップである。ポップコーンみたいだな、と連想する彼女だったが、視覚的情報から得られる重量感(イメージ)と実際のそれとでは比較するに値せず。荒廃した大地を削り出し、爆破して、ボロボロになるまで砕けば、同じような物ができるかもしれない。
 とはいえ、元々あれは月の破片であり、月の大地そのものなのだ。今となっては星の残した屑でしかないが。
 直径六、七〇メートルを超えようかというドロップは、一直線に彼女に迫って来る。正確には彼女の背後にある青い星、地球へ。
 今まさに、一つの星屑が地球へ落下しようとしていた。
 ……地球に向かって来なければ、ただの流れ星なのだけれど。
 流れ星といえば聞こえはいいが、地球周辺のオービタルリングから地球の重力に引かれてきたそれは、落下すれば地球の大地を抉り出し、衝撃をもって猛威を振るうだろう。故に、彼女の行動はただ一つ――。
 「ロケーションデータと地上観測の誤差修正受信。ライブポイント確定」
 一息、
 「ヌービアム、これよりスポッティングに入るわ」
 重力に引かれ続けるドロップ。その先、地球を背に一体の人型が存在していた。
 人型の、巨大な機械である。四〇メートル程もあるその巨体は雄々しく聳え立ち。黒く輝く装甲纏いて。その頭部、瞳の如き真紅の双眼が、地球に向かって来る標的を鋭き眼光にて捉えていた。
 巨人の名は、プロメテウス3・ヌービアム。
 オービタルリングを外れて地球に落下するドロップを大気圏外で破壊するため、モンデンキントJP(ジャパン)が開発した隕石除去人型重機“IDOL”の一機である。
 ヌービアムを繰るのは、十九歳の少女。凛として自信に満ち溢れた表情は、その歳にして達観した大人の雰囲気を漂わせていた。強い意志を宿した瞳には、標的たる岩塊。彼女は後ろで結んだ長髪を手で払い、手元の操縦桿を握り直す。細腕だ。決して頼もしいとは言えないその腕は、しかし誰よりも力強い。
 目を瞑り深呼吸を二度繰り返すと、静かに目蓋を開いた。
 ドロップはIDOLをしてすら、なお巨大。そんなものが眼前から近づいて来る恐怖とは、常人には想像すらできまい。それでも、彼女はたった一人でドロップの前に立ち塞がる。見目麗しき彼女の表情を歪め滲むのは、やはり怯え、不安、恐怖か。果たしてそれは――否だ。
 笑顔だった。決意に満ち溢れ、一点の曇りもない、笑顔だった。
 「いつでも、いいわよ!」
 『了解、カウントスタート! 十……、九……』
 それが合図。

 「ヌービアム、オンステージ!!」

 気合の一声。同時、彼女は勢い良く操縦桿を引いた。それに呼応し、黒い巨人、ヌービアムは屈強な鋼鉄の腕を振り上げ、構える。
 計器に表示されるドロップとの距離が見る見る内に縮まっていき、照準枠が目標をロックオン。ヌービアムを操る動作に一切の迷いはなく。巨人は応じて動作する。相対速度良し。準備、完了。次の瞬間、フットペダルを踏み込むと同時、脚部のロケット噴射口から火が噴き、カウントに合わせてドロップへと一気に肉薄する――!
 『三……、二……、一……』
 「ライブ――」
 極限の集中から発生する、時の停止にも似た、感覚が引き延ばされる錯覚。あらゆる挙動と現象を、彼女は瞳に焼き付け。
 そして、〇カウントが刻まれる。
 「シュート!!」
 ロケット推進で更に加速し、ヌービアムは迫る星屑に握り締めた拳を叩き込んだ。
 刹那。一撃を加えられたドロップは歪み、一瞬にして広がった凄まじい衝撃は、破壊力として標的を破砕した。外と内から亀裂が入り、まるで弾けるように四散。目を覆うほどの眩い光を放ちながら粉々に砕け散り、大気圏に落ちて行く破片は、地上から見ると、まるで光の雨のように映ったことだろう。
 状況確認。管制室から聞こえてくる声は、オールクリアを告げる。破片となったドロップは、大地に到達する前に大気圏摩擦で燃え尽きる。これにて、任務は完了だ。
 脅威は回避された。青き地球は、何事もなくそこに在る。
 『クランクアップ(作戦終了)。お疲れ様、帰還して』
 「了解。ヌービアム、これより帰還行動に入るわ」
 慣れた操作でいつも通りの手順を開始する。ドロップの迎撃活動はこれで幾度目か。地球は日々こうして脅威から守られてきた。そしてこれからも守り続ける。彼女に守るべきものがある限り、何度でも。
 ――だが、運命は時に残酷である。
 異常は突如起こった。周囲の状況を監視する索敵類が、前触れもなく何かの反応を捉え、警戒アラートがけたたましく鳴り響く。
 「……ッ!?」
 光が奔った。突然の異常事態に対応が一拍遅れてしまう。本来の彼女なら絶対に犯さないようなミスが、彼女の運命を左右した。反応できなかった一瞬。衝撃がコックピットを襲い、咄嗟に外を映し出すモニターへ視線を向けると、そこに映った何かを確かに見た。
 「これは……!」
 最後まで言葉を紡げない。次の瞬間、ヌービアムの腕は脆くも爆散した。もがく暇もなく、今度は強力な引力がヌービアムを引き寄せ始めた。背部から地球へ落下して行く黒い巨人。黒い装甲が摩擦熱で紅蓮に染め上がっていく。
 『――!! ――!?』
 耳が痛くなるほどのノイズのせいで、通信が聞き取れやしない。いや、こんな状況では通信も何もあったものではない。コックピットを襲い続ける落下の衝撃で、そもそも身体の動きすら封じられ、まともな対応が取れないでいるのだから。
 死んで堪るか。
 彼女を突き動かしたのは、生きることへの執着だった。機体の制御を取り戻そうと、操縦桿を掴む、フットペダルに力を込める。絶対に諦めない。足掻くことを止めない。簡単にこの状況を受け入れられるほど、彼女は今に満足していなかった。
 だからこそ、生きる。今ならまだ現状を打破できるはずだ。操縦桿を必死に動かし、フットペダルを踏み続ける。そしてモニターに視線を向けた時。
 モニターが映し出していたのは、ヌービアムに這い寄る、不気味な巨体だった。背筋がゾクリと震える。そしてそいつは、高く掲げた腕を、今まさに振り下ろそうとしているではないか。
 彼女はその時、何を想ったのか。ただはっきり“最後”を感じた。唇が薄く言葉を紡ぐ。
 「……ごめんね」
 誰への言葉か。彼女の謝罪は虚しく虚空に消えて。
 復興暦一〇三年。この日、プロメテウス3・ヌービアムと呼ばれていた存在は、衝撃と共に摩擦の生み出す炎獄の中へと姿を消して行った――。

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