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 Project・ZEROm@sの発端となった作品です。


 THE iDOL M@STER 0 ~玲玲、小鳥が舞う~


 小鳥が、音も無く、空から落ちてきた。
 「わっ」
 声が降ってくる。鳥ではない。翼もなければ羽ばたきもしない。人だ。しかし、ふわっと眼前に影を作った彼女の姿は、小さな翼で一生懸命に空を打つ小鳥の仕草が迷わず重なった。驚きも声にならずそれを吐息として消化した尾崎玲子は、見る。
 気づけば、はしたなくも地面に座り込んでいた自分に差し出された手の平を。
 「ごめん、びっくりしたよね」
 あっ、と。そこで玲子は初めて驚きを口にした。小鳥のさえずりだ。自然と紡がれた言葉に、目の前の少女が不思議そうに小首を傾げたので、慌ててその手を借りる。
 「あの……」
 「急いでるの、ホントにごめん!」
 投げるように謝罪を置いて駆け出した少女は、すぐに建物の向こうに消えていった。
 何事だったのだろう。突然段差の上から飛び降りて来たと思えば、疾風も真っ青になりそうなスピードで消えていった彼女。元気な小鳥みたいな人だったな。玲子は脳裏に浮かんだ印象を反芻してから、服の埃を払って顔を上げる。
 そこには人混みにもまれるようにして、白亜のコンサートホールが鎮座していた。数えで十歳になる玲子にとってみれば、本来そこまで大規模ではないコンサートホールも、重々たる城に見紛おう迫力を携えていた。先程から驚いてばかりだと自己分析しながら、ポケットの中で大事にしまわれた紙片を握る。
 入り口の横には立て看板があって、『IU予選会場』と書かれているのを確認。その周りを行く人々が、日高舞の名前や写真の入った団扇やTシャツを着ているのを横目で追って、玲子は密かに心躍らせた。
 IU(アイドルアイルティメイト)と言えば、日本で一番輝いているクイーンオブアイドルを決定する年に一度の有名番組企画である。
 そして日高舞は、今や知らぬ者はいない国民的アイドルの名前。同姓すら妬むことを忘れ羨む美貌と、境なく人の心を鷲掴みにする歌声。空前のアイドルブームである昨今、男も、女も、誰もが彼女に憧れていると言っても過言ではない。かくいう玲子もその一人だ。
 彼女が参加するという予選公開収録の、入手困難と言われたチケットを奇跡的に手に入れた玲子が、仕事の都合行けなくなった両親に“お預け”を言い渡されたのは昨晩のこと。
 日高舞に会えるのに、そんなの酷い! 反発心と諦めたくない一心でここまでやって来た玲子はたった一人、人混みの中を、勇気を振り絞って歩き始める。興奮と緊張の入り混じる空気は幼い玲子にとって麻薬にも似た陶酔感を煽った。
 子供一人であることを咎められはしなかった。比較的子供連れが多いこともあるし、そもそも係員は皆忙しそうだ。ラッキーかもしれない。
 会場は一階と二階に分かれたワインヤードタイプであり、ホール中心にある舞台を囲むようにして席が並んでいる。荘厳な宮殿か、舞台に至っては岩壁に囲まれた入り江の泉とも見て取れ、とにかく経験したことのない高揚感に背中を押されて席に着く。一階席、北側前列三番目。セット正面に位置するそこは、かなりレアリティの高い場所だ。
 一人、隣に二つ空いた席を眺めながら、玲子は予選が始まるのを待った。
 しばらくするとホールを照らす天井の明かりが消え、司会者と思しき男性が袖から現れる。ライトの作り出す光の円が後を追いかけて。
 「それではこれより、IU予選大会を開催致します!」
 観客の拍手に吞み込まれながら玲子は今か今かと待ち侘びる気持ちを我慢。しかし、周囲の観客も玲子と似たようなもので、皆一様に、たった一人を求めていたのだが。
 始まってからは楽しむ気持ちも相まって時の進みの早いこと早いこと。テレビでよく見る有名なアイドルもいれば、名前も聞いたことのないアイドルもいた。有象無象、玉石混淆の歌、ダンス、ビジュアルアピールが繰り返される中。
 ついに満を持して彼女が現れたのだった。
 日高舞。
 「うわぁ!」
 思わずあがった歓喜の声も轟爆とした観客全員の声に掻き消されるほどの大人気。ホールが地震染みた揺れに苛まれるのを足元で感じた玲子だったが、それよりも目の前の彼女だ、と言わんばかりに食い入る視線を日高舞に向ける。
 整った美顔に幼さを残し、肩口まで伸ばした茶色がかる髪がふわりと浮く。やや長いスカートのドレス系衣装で、まだ女性として未熟な肢体が逆に神聖的な雰囲気を彼女に与えていた。彼女の名前を呼ぶファンの声援に、薄く口紅を塗った唇が優雅に微笑を作り、玲子は不覚にも胸がどきりとする。せざるを得ない笑み。
 彼女はエントリー番号を告げ、
 「日高舞、曲はALIVEです。聴いてください」
 すぅ、と舞が息を吸い込むと同時。この世にある全ての音が自分の意味を忘れてしまったかのように、静寂が会場を支配した。
 今までの興奮も情熱も声援も一切合財、喉の奥に無理矢理押し込まれるような錯覚。喉が熱を帯びている。それは無意識の内に息を呑み、自分で声を押し殺しているのだと気づいた時には、彼女の歌声が耳に届いていた。
 刹那、尾崎玲子の全身が身震いしながら鳥肌立つ。


ZERO mai2


 圧巻。否、言葉になど到底できない歌声が会場をゆっくりと包み込んでいく。壮大なバラードであるその曲は、青々とした空のような、延々と広がる海原のような、脈々と連なる山々のような、――母親の子宮の中のような。幼い玲子の心にさえ言い知れぬ凄まじさの伝わるものだった。
 違い過ぎる。実力は圧倒的以外の何物でもない。例えるならば、未熟なアヒルばかり集まった烏合の衆の中に一羽だけ白銀に輝く白鳥が頂いているようで。流動する空気さえ、彼女を中心に渦巻いているかもしれないと思えた。ましてや歌声に感化された観客の心ならば、まず間違いなく彼女を中心に回っているだろう。
 これが日高舞。若干十五歳にしてクイーンオブアイドルに最も近いと称される少女の実力。玲子には、彼女が絵本から飛び出た女神さながらに思えた。
 最後のワンフレーズを謳いきり、ぴたりと口を噤んだ舞。一拍置いて、舞が登場した時以上の大喝采と拍手が、スタンディングオーベーションまで付いて巻き起こった。お辞儀をする舞の表情は満足気だ。
 まず間違いない。IU本選に駒を進めるのは日高舞だ。疑いようがない。
 舞台袖に消えた舞に釣られるようにして、興奮も胸の奥へと引っ込んでいく。観客の中には既に帰り支度を始めている者もいたが、汗を握る手で、入場時にもらった進行表を見るとあと一名残っている。
 あと、一名。正直、日高舞の後に誰が歌っても心動かされないだろうというのが本音である。
 暗く沈んだ会場の中、目を細め、そのアイドルの名前を確かめようとして――。
 エントリーナンバー! と叫んだ声にはっとして顔を上げた。
 「……あの人だ」
 呟く。ぽかんと口を開けたのは、目の前の舞台に上がっているのが、会場前で段差から飛び降りてきたあの少女だったからだ。
 本来は長い髪を中程で折り、クリップで後頭部に留めた髪型。美人ではあるが、緊張しているせいか不安げに表情を歪めており、ちょっと台無し。口元にぽつんとあるホクロがチャームポイントだな、と考えた玲子は、桜色を基調とした衣装を身に纏った彼女が震える声で名を告げるのを聞いた。
 「音無小鳥です! 曲目は空! よろしくお願いします!」
 やはり小鳥のさえずりを連想させる澄んだ声。しかも名前が小鳥で、曲目も“空”だなんて似合い過ぎだ。第一印象とまったく違わぬ彼女の名前は、知らず微笑んでしまうほどすとんと心に落ち着いた。
 だが彼女も不幸だ。まさか日高舞の後に歌うことになるだなんて、万に一つの希望もない。少なくとも、観客も審査員もすでに結果を出したこの空気の中、おそらくマイナーアイドルであろう彼女が歌うのは酷だろう。
 玲子が不安を心中に抱いた時、彼女の歌が始まった。
 「――空になりたい。自由な空へ」
 軽快なポップで、日高舞とはまさに対照的な歌。荘厳なバラードに対するだけに、インパクトという点ではALIVEに及ばず、表現もどこか稚拙。お世辞でも日高舞と肩を並べられているとは思えない。
 思えないけれど。
 玲子は目撃していた。緊張で歪んだ表情が、歌詞を紡いだ途端、心奪われる華やかな笑顔に変わったのを。


ZERO kotori2


 だからだろうか。玲子は不思議と楽しくなって、曲に合わせて身体を揺らしていた。見える。玲子には歌詞の通り、言葉が天に突き抜け空になり、四季折々の喜びを会場に降らしているのが見える。髪を揺らして衣装を揺らして。ステップを踏む度に玲子も一緒に身体を揺らす。揺らす。揺らす。
 日高舞がその名の通り天に座す太陽ならば、彼女は青々とした空を飛び回る鳥そのもの。そしておそらくその姿は、玲子共々一般の人々と等身大。華やかさや憧れを誘うカリスマ性は薄いけれど、その分、彼女の存在は凡才な人々にとって非情に分かりやい。
 見上げるような存在と隣人のような存在。
 まさに対極。でも、だからこそ、玲子は小鳥の姿に将来性を垣間見た気がした。
「ありがとうございました!」
 歌い終わり、最後にそう言って頭を下げた小鳥に、玲子は惜しみない拍手を送った。日高舞に比べればまばらな会場中の拍手。それでも音無小鳥は笑って舞台袖に消えたのだった。
 出場者全員が歌い終わり、結果が審議される。しばらく、ざわめきの中で玲子はどきどきが抑えられなかった。胸中に去来するのは、もしかしたら、という思いだ。
 もしかしたら彼女が――。
 しかし審査員の口から告げられた優勝者は、自然の摂理を曲げることができないように、当然の調子で、日高舞であった。
 周りの人々が当たり前だと言わんばかりに納得する中で、玲子だけが、なんとなく“残念”だなと肩を落とした。
 日高舞が舞台に現れて手を振っている。わずかに、何かを考え込んでいるような彼女の表情に引っかかりを覚えたが、それも観客の拍手と声援に搔き消された。

                    ●

 会場を出た玲子を迎えたのは夕暮れだった。満足感と少々の落胆で心を満たした玲子は、まだ誰も帰っていないだろう自宅に帰るのが嫌で、その足を近場の公園へと向ける。高台の、綺麗な広場のある公園だ。
 驚いたのは、そこに音無小鳥がいたこと。
 「あれ、あなたは――」
 玲子に振り向いた音無小鳥は、泣いていた。目の端に一杯の涙を浮かべて、玲子に見られまいとして懸命に我慢しようとする様は痛々しい以外の何物でもなかった。拙いところに来合わせてしまったぞ。そう考えた玲子だったが、こちらを見据える小鳥に、意識するまでもなく言葉が先走った。
 「あの、サインください!」
 本当は日高舞のサインがもらえるかも、と用意して白紙のままになったサイン色紙を取り出し、彼女に差し出す。きょとんとした表情の小鳥を前にして、玲子は畳み掛けるようにして想いを伝えた。無我夢中で、あの歌が、心に響いたことを。
 「あ、ありがとう。でも私のサインなんてもらっても価値はないよ?」
 「小鳥さんのがいいんです!」
 両端で結んだ玲子の豊かな髪が風に流れる。価値ならある。今この瞬間に気づいた。尾崎玲子はいつの間にか、あの数分間だけで、音無小鳥のファンになっていたのだから。価値なら大き過ぎるほど、ある。黄昏色の空を飛ぶ小鳥達の群れがそれを肯定するように鳴きながら去っていく。
 ところが、音無小鳥が、ぼろぼろと涙腺を崩壊させて涙を流しながら色紙を受け取ろうとした刹那。
 「あ、いたいた、音無小鳥! あなたよ、あなた!」
 声の主は階段を駆け上がり、昇り切り、こちらに走って来る。小鳥と玲子は思わずぎょっとした。
 無理からぬこと。だって、誰だって、あの日高舞が走って来れば驚きもするだろう。
 硬直した二人を他所に、日高舞は息を整えながら肩を上下させて、舞台の時とは違う歳相応の少女らしい笑顔でこう言った。
 「音無小鳥、あなた、これから私のライバルね!」
 「ええっ!?」
 「やっと見つけた、私を楽しませてくれそうなアイドル! ねぇ、早くAランクまで上がって来てね! 私結構飽きっぽいから早急にね!」
 小鳥の両手を掴んでぶんぶん振り回す舞は心底嬉しそうで。振り回される小鳥は涙と困惑で表情をぐちゃぐちゃにして。そんな二人を眺める玲子は、もしかしたらとんでもない所に居合わせたのでは、と驚き半分嬉しさ半分で。


ZERO M RO K1


 近い将来、彼女達は煌びやかな物語を織り成すのだが、けれどこれは別の物語。
 また、別に機会に話すことにしよう。



コメント

ブログ、開設おめでとうございます!!

いや~、微熱体温さんのとこにも書きましたが、自分より後にアイマスSSはじめる人がいて嬉しいです(すでにアイマスSS検索エンジンとか死んでますよ)。
「アイドルマスター2」が出るその日まで! って感じで頑張りたいですね。

さて、その公式が絶対に「Dearly Stars」で描いてくれるであろうと誰もが信じて疑わなかったのにスルーされた、日高舞と音無小鳥の話を見事に補完されていて嬉しかったです。
この件は2ch、ニコ動で激しく叩かれたましたが、バンナムからすると音無小鳥は二次創作で勝手にクローズアップされただけに過ぎないキャラのようです、残念。
黒井社長さえも気にする音無小鳥は相当に美味しいキャラなんですけどね~。

次回は色々私事があって「一枚絵で書いてみm@ster」に参加できませんが、復帰した折にはまた感想を交換しましょう。ではまた。
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Author:o-van P
 しがない物書き。アイマスとロボットをこよなく愛する人間。どんな時でも仲間を求める習性がある。

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