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 第十一話 ヒエムス争奪大決戦/trust you


 拳の激突は、接触点を中心に重力異常を発生させた。強力な慣性制御による重力殻同士の接触だ。力の方向性を極限まで外に向けて放出する二機の攻撃は、周囲の空間に歪みを与え、無色の衝撃は空に迸り、拡散する。
 ヴェルトールとヌービアム。黒い装甲を携えた二機は、退けば命はないとばかりに拳をぶつけ合う。関節部は軋み、小刻みに震える腕部を庇いもせず。
 まさしく背水の陣の心構えで立ち向かう宙は、ヴェルトールのコックピットの中で、突き出した操縦桿を必死に支えていた。負けて堪るか! 言霊を吐き出し、それを宣言として、宙は決して退かなかった。
 だがしかし、ヌービアムはあろうことか、もう片方の腕でヴェルトールの拳ごと掴みにかかる。重力殻同士が侵食し合う境界に手を出せば、下手をすれば装甲が耐え切れず、千切れかねないというのに。紫電が散る中に腕を突っ込むヌービアム。よく見ると、腕部の周りは高度な慣性制御で保護されているのが分かった。
 ヌービアムは、ずぶりっ、とヴェルトールの重力殻を食い破って腕部を掴む。――自分の腕を掴まれたような錯覚。
 宙は息を呑む。やばいっ! と感じた瞬間にはすでに遅い。ヌービアムは、ぐいっとヴェルトールの腕を上方へ引っ張ると、がら空きになった胸部に鋭いパンチを二、三発叩き込み、フィニッシュと言わんばかりに足蹴りを、ジェットノズルの口をヴェルトールに向けて力の限り突き込んだ。その一撃、無双を誇る槍の如く。
 鋼の砕ける、拉げる音。
 身体を折り曲げながら吹き飛んで行く黒の巨影。軽く舌打ちしながら、宙はなんとか体勢を制御、地面に叩きつけられる前に空中で停止する。
 「装甲負担率上昇! ですが、まだいけます」
 「やっぱ一筋縄でいく相手じゃないか、初っ端からやってくれる。……不足はないさ!」
 接近戦は完全にスキル負け。いや、反射速度を初めとしてあらゆる能力で上を行かれている事実。認めないわけにはいかなかった。
 天を仰ぎ見た先に、威風堂々とこちらを見下ろすヌービアム。その天地の距離が両者の実力差だと言わんばかりだ。なんて大きい差だろうか。
 けれど、こうも思う。なんて小さい差だろうか。
 初めて出会った時に感じた距離感すら掴めない圧倒的実力差。それが今はどうだ。こうして真正面から対峙して、冷静に戦えている。天国と地獄などという、もはや概念的な表現しかできなかったものが、同じ現実的な舞台で向き合っている。それを考えれば、その差のなんと小さいことか。
 いずれは手が届く。リコリスの実力と同等の位まで。そう確信できるほどの位置まで自分は迫っている。宙は自然と笑みが零れていた。強敵への恐怖を押し退けて顕現する、己の成長に対する確信と戦いへの高揚感。不謹慎だと分かっていても、この喜びを止めることはできない。心に余裕のなかった以前ならば、こんな気持ちにはならなかっただろう。
 あずさは、宙さんも男の子なんですね、と言ってヌービアムと戦うことを承諾してくれた。たぶんその通りなのだろう。自分は男だから、こんなにも熱い、緊張感に満ちた戦いが嬉しくて堪らないのだ。早くも流れた汗が頬を伝う。荒れた呼吸が酸素を求めて喘ぐ。なんという快感。
 負ける気がしない。現在(いま)の自分は、かつてのどんな局面より強いのだから。この背を押してくれる決意がある。必ず勝つという約束もある。そして、隣で自分と一緒に戦ってくれる大事な人がいる。見てみろ、この状況のどこに敗北する要因があるというのだ。そう、もう自分は一人ではない。
 過去と向き合う覚悟を決めて。仲間がいて、信じる人達がいる。
 ……だから今の俺は、強い!
 さぁ、相棒。共に勝利をこの手に。
 宙の想いに応え、ヴェルトールのカメラアイが力強く発光した。機械の瞳が緑光を放ち、駆動音が雄叫びをあげる。操縦桿を引き、動きとシンクロして構えを取るヴェルトール。
 『……まるで別人ね。何が坊やをそこまで変えたのかしら?』
 「この戦いに勝ったら教えてやるって言うのはどうだ?」
 『あら残念。なら勝敗は目に見えているもの、今教えてくれても問題ないと思うけど』
 「その余裕、今から焦りに変えてやる!」
 リコリスとの応答はわずか。宙はモニターに表示されるステータスをざっと確認。装甲負担率はまだ問題ない。各駆動系も、寒冷用装備のおかげで良好だ。ヴェルトールはこれ以上ないほど調子が良いと言える。ならば、あとはマスターの采配で如何なるようにも変わってくれるはず。
 ヌービアムは慣性制御による瞬間加速。距離を詰め、右拳を豪快に振るう敵に対し、宙はヴェルトールを屈ませそれを回避。腰部に装備されているウィングスラスターを前方に向けて噴き、後方に下がって距離を取る。
 瞬時の攻防。――やはり実力はリコリスの方が上手。
 「近接戦闘は分が悪い……!」
 「私もそう思います。春香ちゃん達くらい動ければ話も変わると思いますけど。私達にはまだ無理がありますし……。あれを試してみますか?」
 「出し惜しみはできないよな」
 頷き一つ。あずさはコンソールを操り、武装を選択。宙も合わせてトリガーを引く。
 がこんっ、と音をたてて。ヴェルトールの背部にあるウェポンホルダーが動作する。両肩の装甲に被さるようにして迫り出たホルダーの口が開き、出番を待っていた強大な魔銃が目を覚ます。グリップ展開。
 ヴェルトールは五指でグリップを握り――掌部の接続部とコネクト。動力供給良し。稼動状態良好――それを引き摺り出した。黒光りする銃身は陽光を反射して。銃口は巨狼の口腔に似ている。鋭利なフォルムは、存在そのものが獣の顎(あぎと)を連想させた。
 二挺銃アルツァヒール。ヴェルトールの切り札にして、最強の威力を誇る、世界で唯一の慣性制御を用いた射撃兵器。
 掌部に接続が確認されると、あずさはステータスを調整する。
 一発でドロップを破砕するアルツァヒールの威力は確かに反則級だが、それに比例してエネルギー消費もまた甚大だ。コアから供給されるエネルギー量が如何に莫大でも、そう何発も撃てるものではない。
 だが、その逆の発想もある。出力を出来る限り最小に。威力は下がるが、弾数を大幅に増やすことができる。試しに一発。宙はトリガーに指を掛け、モニターに表示される十字の照準をヌービアムに合わせて。
 引き金を、絞る。
 発射音は雷の迸る音によく似ていた。刹那、アルツァヒールの銃口から無色の閃光が奔る。閃光はヌービアムに向かって一直線に駆け抜け、重力殻に牙を立てた。
 『……っ!?』
 息を呑むリコリス。重力殻が閃光を受け止めるが、ヌービアムはわずかに後方へ押されて、球状の重力殻の縁に沿って光が拡散していく。閃光が収縮した後にヌービアムは無傷で健在していたが、防御の要である重力殻は減衰したようだった。連続で数発当てることができれば、防御を突き破って直撃させられるかもしれない。
 『驚いた、そんな使い方も覚えたの?』
 「その声、あまり驚いたように聞こえないな。ちょっと癪だ」
 言葉とは裏腹に、宙はよしと拳を握った。この威力ならば十分使える。クロスレンジはヌービアムの独壇場。だが、遠距離兵装のないIDOLが苦手とするアウトレンジからの攻撃ならば有効だろう。ヌービアムとヴェルトールの機動力はほぼ互角。なら、上手く立ち回ってヌービアムを懐に入れなければいい。
 これは戦闘用IDOLとして作られたヴェルトールにのみ許された戦法だ。
 『確かに、そこまで驚くことでもないかしら。だって当たらなければいいだけでしょう?』
 「舐めるなっ!」
 ヴェルトールとヌービアムはほぼ同時に動いた。ヌービアムは接近すべく頭部からの垂直降下。ヴェルトールは後方へ高速スライド、低空移動で距離を取る。弾丸となって襲い掛かって来るヌービアムに銃口を向け、トリガーを続けざまに引き絞った。轟雷一閃。複数の無色光が奔る。
 『その程度では児戯と変わらない!』
 無数の銃撃を、しかしヌービアムは華麗に回避する。一撃目を最小限の動きでかわし、続けて飛来する二発目は、慣性制御で保護した腕を使って叩き消す。三発目、空中で横に一回転して見せてこれも回避。最後の機動は、もはや相手に見せつけるサービスでしかない。それほどまでの、余裕。
 あっという間に詰められた天と地。振り被ったヌービアムの右腕は、全力で拳撃を叩き込まんと放たれた。
 振りが速い。直撃コース。
 「防御壁を展開します、出力最大!」
 しかしこちらもただではやられない。両肩に装備された多重装甲バインダー。その能力である絶対防御壁を展開。装甲車に砲弾が撃ち込まれたかのような鈍く高い打撃音が木霊した。突撃、衝撃、拮抗の三段階を経て、ヌービアムの攻撃が滑るように逸れる。
 チャンス。IDOLが得意とする進行方向の瞬間的変更。ベクトルを一瞬にして曲げたヴェルトールは、まるで不可視の足場を蹴り飛ばしたかのように、上方へ向かって跳躍。
 目標を見失った拳撃は容赦なく雪原に突き刺さった。あまりにも大きい衝撃に、降り積もった雪が空に向かって、大爆発さながらの大音量を響かせて舞い上がる。白い雪の結晶がきらきらと陽光を反射させながら、IDOLの全長を遥かに超える大きさの壁=雪柱となったのだ。雪柱は一時的にヌービアムの視界を塞いでしまった。
 そう、それこそが宙の狙い。
 『……っ! どこへ?』
 見失った相手を探して右往左往するヌービアム。コックピット内、リコリスの瞳に映ったレーダーには、ヴェルトールを示す点が表示されていた。それは相手が自分の眼前にいることを告げている。目の前には、巨大な雪柱ができたばかりだ。
 誤りではない。目の前に、宙はいる。

 瞬間、最大出力のアルツァヒールが咆哮を放った。

 それは壁と化した雪の向こう、反対側から射撃された。宙はヌービアムが地面を吹き飛ばした瞬間、回避と同時に盛り上がるように壁となった雪で姿を隠したのだ。行動は迅速である。ヌービアムと雪柱を挟んで直線状のポジションを取った宙は、レーダーを頼りに狙いを定め、あずさもアルツァヒールの出力を最大に設定。
 この間十秒と経っていない。それこそ打ち合わせたような予定調和。
 巨大な極光は雪柱を問答無用で突き破ってヌービアムへと着弾した。一瞬にして蒸発した雪が、どごんっ! と爆発音を空気に伝播させて。がりがりとヌービアムの重力殻を食い破って行く光は、まるで餌を貪るライオンの如き様相。
 「貫けぇぇぇぇぇえええ!!」
 一撃必殺の策。それを慣行した宙の想いは、自然に声となる。
 復讐を誓ってから数ヶ月。辛酸を舐め続けて今に至り、宙はあずさと共に、自分達にできる最高の攻撃を宿敵に見舞ったのだ。叫び声をあげた宙の心に去来するのは、様々な思い出。アイドルマスター課で過ごした時間が宙に力を与えている。そこにはもう、他人を恐れる弱虫な青年の姿はなかった。
 さぁ、打ち砕け。想いと共に、閃光は爆発して。
 ――衝撃の後、辺りは耳が痛くなるほどの静寂に満ちていた。
 「やった……か?」
 ヴェルトールのカメラを通して、宙は見る。青々と広がる空を。静まり返った周囲を。大きく抉れた大地を。蒸発した雪が作り上げる水蒸気の霧を。
 そして、霧の奥で光る赤い双眸を。
 次の瞬間、霧のベールを裂き、ヌービアムは一筋の矢となってヴェルトールを襲った。
 油断。完全に隙を突かれた形で、ヌービアムの突き出した膝が胴体部に直撃する。人間ならば内臓を破壊されてもおかしくない一撃は、ヴェルトールのボディをくの字に曲げて威力を存分に知らしめた。
 それでも宙は咄嗟にアルツァヒールを発射。振り回すのと変わらない仕草で相手の頭部をロックして三連発、短い射撃音に重ねて光弾が吐き出されるが、ヌービアムは一礼するかのように頭を下げてこれを回避。近接はヌービアムの得意とするところ。空中で一回転し、バランスを崩したヴェルトールの頭部に超重荷の踵落しがお見舞いされる。
 轟音炸裂。雪原に抉り込まれる黒の巨影。
 「ぐっ、あいつは曲芸師か……!」
 雪のクッションは思いのほかダメージを緩和してくれたようだ。頭を振って持ち直した宙は、ヴェルトールを立ち上がらせて悪態を吐く。吐かなくてはやっていられない。
 完全に虚を突いた一撃だったというのに。まさしく必殺の一撃だったはずなのに。ヌービアムは堂々としてそこに在る。なんて奴だ、と乾いた笑みを浮かべる宙。余裕を焦りに変えてやると宣言したのに、あろうことか焦りを与えられたのはこちらだった。
 『本当に驚いたわ。ええ、本当にすごいわ。ヌービアムが悲鳴をあげているもの』
 リコリスの言葉通り、最大出力のアルツァヒールに、さすがのヌービアムも無傷とはいかなかったようだ。重力殻は完全に消失し、装甲表面の一部は溶けて拉げている。特にアルツァヒールを受け止めた右腕部は損傷が酷く、ばちばちと火花が散っていた。
 リコリスは感嘆の声を漏らす。傷ついた右腕部を眺めながら、
 『なるほど、私の動きは読まれていたのか。いや、攻撃を誘われていたのね。……これ以上ないほどの行動予測、ポジショニング、絶妙なタイミング。二人乗りだからこそできる業なのかしらね、それは』
 リコリスの読み通り、必殺となるはずだった今の一撃は、宙とあずさが協力して初めて成せることだった。ヌービアムの動きを予測し、拳撃を誘い込むための機動、射撃角度までを弾き出したのは他でもないあずさである。宙はあずさが弾き出した予測を信じて、ただその通りに行動したに過ぎない。
 ただ何の疑いもなく信じた。IDOLを直接動かす宙自身の直感を、あずさのサポートが裏付ける。それこそがヴェルトールの強さの正体。一人で戦うことをやめ、あずさを信じた宙の進化だ。
 そうだとも。あのヌービアムに深手を与えたのだ。勝機は必ず――。

 『じゃあ、そろそろ本気を出してもいいかしら?』

 刹那、空間が息苦しい重圧に包まれたのを肌で感じ取った。肌がざわめく。五感の全てが告げている。逃げろ、と。さもなければ後に続くのは。
 宙は一瞬、無残にも転がるヴェルトールの残骸を幻視して、息を呑んだ。今のは錯覚、忘れるんだ天川宙。自分に言い聞かせて、嫌な汗が滲む。
 ふと、サブパイロット席に座るあずさを見る。彼女もヌービアムの気迫に呑まれてしまったのか、怯えた表情で肩を震わせている。それでもあずさは、泣き言の一つも言わない。気丈にも立ち向かおうとしているその姿。
 それどころか、宙の視線に気づくと、にこりと微笑んで見せたではないか。宙を安心させるための笑顔。そんな余裕などないはずなのに。
 ……馬鹿だ、俺は。自分だけが怖いわけじゃないのに。
 宙は深呼吸して臆病な気持ちを追い出すと、あずさと顔を見合わせ、大丈夫だと頷いた。彼女の笑顔の温かさは、小さくなった勇気の灯火に油を注ぐ。燃え上がる闘志。
 「勝てるさ、俺達は。不安な気持ちは二人で支え合おう」
 「……ええ、少し怖いですけど。宙さんが、私を支えてくださいね?」
 「ああ、信じ合うってそういうことだもんな」
 眼前、悪魔の如き敵の姿。凶悪な刃染みた重圧に耐え、宙は立ち向かう。ヴェルトールは二挺銃を構えて、次なる激突に備えた。負けるわけにはいかない。両者の闘気がぶつかり合い、空気が震えているような気さえする。再度、その銃口を黒き悪魔へと向けた。
 その時である。
 『宙君、聞こえる? トゥリアビータの本隊がそっちに――』
 「音無さん?」
 管制からの通信……だったと思う。スピーカーから流れた声は、しかしすぐにノイズに掻き消された。ざざぁ、という砂嵐のような音。通信不良か? と首を傾げた瞬間、モニターが前方の機影を映し出していた。
 トゥリアビータの本隊である。無数の蒼いIDOLエピメテウスが、まるで空の一角を覆うように編隊を組んで飛行してくる。その集まりそのものが、一体の巨大な生き物のようだ。今まで見たこともない大部隊がこちらへ向かって来る。
 その中に、宙は妙な機体を発見した。モニターを拡大表示して確認すると、その姿の全容が知れた。――なんだ、こいつは。宙は思わず呟いた。得体の知れない悪寒が背筋を奔って、皆に知らさなくてはいけないという思考が渦巻いて意思を支配する。急いで他の機体への通信を開くと、とにかく全員に呼びかけた。
 「皆、トゥリアビータ本隊に妙な機体を見つけ……んっ!?」
 声を遮って流れたノイズに、反射的に耳を塞いだ。ただの通信不良なんかじゃない。何かが、何かがおかしな方向に向かっているようで、一抹の不安が宙とあずさの心を蝕んでいった。
 『余所見していていいのかしら?』
 リコリスの声で我に返った二人は、今は目の前のことに集中しようとする。今一番崖っぷちなのは、おそらく自分達なのだから。
 ただ、もう少しで頭上を飛び去って行くであろう大群を相手にする仲間達に、どうか無事でいてくれてと願わずにはいられなかった。

                   ●

 『皆、トゥリアビータ本隊に妙な――』
 宙からの通信は唐突だった。しかも最後まで言い切らぬうちに、妙な通信不良が声を遮ってしまった。ネーブラのコックピットの中で、伊織とやよいは顔を見合わせて、何事だろうと疑問する。通信を返しても、返事はない。
 宙達は今まさにヌービアムと戦いを繰り広げているはずだ。あの強敵を相手にして、他に気を回す余裕があるとは思えないが。それほどまでに重要かつ緊急の要件があるのだろうか。少なくとも、只事ではないことは確かだった。
 「まさか撃墜されたんじゃ……?」
 自分で口にして、伊織はすぐさま首を振った。そんな馬鹿なことがあるわけないじゃない。あいつは私達に誓ったんだから、必ず勝つって。
 宙は嘘を言わない。言ったことは、最後まで死に物狂いで果たそうとする根性の持ち主だ。そうだよ! やよいも同意する。
 初めて宙に会った時、なんだろうこの半端者は、と憤りを覚えた。伊織が芸能界を夢見るきっかけとなった、あの天川マツリの弟がこんな奴だなんて信じたくなくて、つい辛辣に当たってしまったが、彼は罵倒されて泣き寝入るような男ではなかった。だからこそ伊織は宙を認めている。倒れたら死んでも立ち上がる男、それが天川宙だと思うから。
 そんな奴が簡単にやられて堪るものか。あずさだって一緒なのだから、大丈夫。きっとヌービアム相手に奮戦していることだろう。
 だから今は考えない。途切れてしまった通信も、宙達の安否も、自分の役目を終えて、この作戦の全てが終わってから。作戦が終わったら、何気ない表情で二人と苦労を労い、ああ、何も心配なんてなかったんだと軽口を叩けるに決まっているんだから。
 「やよい、ここから先は私達の意地に賭けて一機たりとも通さないわよ! いいわね?」
「うっうー、もちろんだよ!」
 蒼穹の下、煙の立ち上るグリムス山を背景に、腕を組んで仁王立ちするネーブラの存在があった。その姿、あらゆるものを拒む鉄壁の如し。決して破られることのない無敵の盾が、まだ見えぬ大勢の敵をその双眸にて射抜いていた。
 しばらく無言の時間が続いて――。
 敵は来た。
 「前方! 前からたくさん反応! いっぱい来るよ、伊織ちゃん!」
 「雑魚が寄って集って。やってやろうじゃないの!」
 レーダーが複数の飛行物体の接近を捉えた。次々とレーダーの範囲に入って来る赤い点は、その総数およそ五〇。確認できる限り、三つの編隊が隊列を組んでグリムス山へ向かっている。しかし残念だろうが、その進行上にはネーブラがいる。一機残らず叩き潰してやろう。
 さぁ、来きなさい! 気合一発、打ち合わせた両拳から火花が飛び、ネーブラは向かって来る軍勢の、その先頭部隊に向かって加速した。
 邂逅は刹那、ネーブラを確認したエピメテウス達は爪状の腕部を伸ばし、群れを成して襲いかかる。
 たかが人形が調子に乗るんじゃないわよ! 叫んで、周囲に展開する重力殻を攻撃に転用。普段は身を守るための防御機構を、相手の装甲を破砕させる鈍器として、エピメテウスの胴体にストレートパンチを打ち込む。
 圧力。圧倒。圧壊。
 パイルバンカーよろしく、ネーブラの拳はいとも容易く敵の体を貫いた。
 「もういっちょ!」
 伊織は操縦桿を引き、ネーブラも動きに合わせて、腕に貫かれたままのエピメテウスを豪快にフルスイング。遠心力と慣性制御によって速度を加えられた残骸を、群がる雑魚共に向かって投擲する。風を切る音は怒涛。腕から射出されたエピメテウスは、敵機の群れに突っ込んだ瞬間、衝撃に耐え切れず爆散した。
 爆発は赤い花を連想させるほどに鮮やかだ。花弁の如く広がる爆発は、群れを成した鴉さながらに密集するエピメテウスを巻き込み、灼熱の風が地獄の番犬となって牙を剥く。
 炎花が収まれば、前方にぽっかりとできた空間。風の去って行く音は、大量の敵を道連れに溶けて消えたのだった。
 どうだ、思い知ったか。戦闘中にも関わらず、やよいとハイタッチを交わし、伊織は勝気な微笑を浮かべた。
 トゥリアビータの進軍が、止まる。数で圧倒していながら、たった一機を相手に前へ進むことができないでいる。その事実がその足を止めたのか。
 『新しいお友達の遊び相手にはちょうどいいね』
 大群の中から、幼い少女の声が響いたのはその時だった。
 「伊織ちゃん、上!」
 「……っ!?」
 瞬間、伊織は弾かれるようにネーブラを後退させた。フットペダルを蹴り込んで、飛び退ったネーブラのいた場所に、間一髪、弾丸の雨が降り注ぐ。冷気を切り裂いて発射された弾丸は頭上から、針の穴に糸を通す精巧さで放たれたものだ。やよいが少しでも気づくのに遅れていたら、間違いなく直撃していただろう。
 ……ううん、重力殻に守られたIDOLに通常兵器は効かない。
 その事実を思い出しつつ、伊織はネーブラの目を通して狙撃手に視線を向けた。
 そこにいたのは、エピメテウスとは異なる特殊な形状をしたIDOLであった。
 赤褐色の装甲は、量産型であるエピメテウスと一線を画す分かりやすい要素だ。オリジナルIDOLに比べて小型であるエピメテウスとは対照的に、それのサイズはむしろこちら側に近い。
 だがデザインは異質で、全体的にずんぐりとしたシルエットに、右腕にはガトリング砲を彷彿とさせる長大な砲身が装備されている。背後には巨大なドラム缶状の筒が左右に一つずつ。それらに負けじと、鋼鉄の塊からそのまま切り出したかのような分厚い装甲版がボディを構築していた。
 武器。伊織もやよいも、まずそこに疑問を抱いた。
 IDOLとは隕石除去人型重機。兵器ではない。故に武器も持たない。例外的にテンペスタースのような、対ドロップ用の小型レーザー砲台を装備することもあるが、あくまで試作的な代物であり、あそこまで貪欲に破壊を求めてはいない。
 設計思想からそもそも違うのだろう。つまり、あれはヴェルトールと同種の存在なのではないだろうか。伊織は目を細めた。
 戦闘用IDOL。
 『“ヒドルン”に任せればここは十分だよね。――ネーブラ一機なら、大した相手じゃないし。いいよね、ヒドルン?』
 舐めきった発言。伊織は額に青筋を浮かべたが、
 『了解しました、リファ』
 硬質的で人間味の欠けた声に言葉を失った。人が乗っている? 人員不足により、無人の人工IDOLを主としているトゥリアビータに限ってそれは在り得ない。
 「伊織ちゃん、あのIDOL、やっぱり人が乗ってないよ」
 ライフセンサーの返す反応にやよいは眉を潜めた。おそらく、あの声は合成音声なのだろう。
 喋る人工IDOL。抑揚のない声に鳥肌立つ不快感を覚えて、耐えるように右腕を左手で掴んだ。嫌な感じ、それに見下された態度も気に食わない。不快はやがて怒りに変わって、すぐにでも奴等を痛めつけてその見解は誤りだと教えてやりたかった。
 『ヒドルン、頼んだよ。エピちゃんも何体か置いて行くから!』
 「待ちなさい! あんた、この伊織ちゃんにそんな態度して、ただで済むと思ってるの?」
 声の主はどこだ。ネーブラを駆る伊織の前に、上空からヒドルンが立ち塞がった。
 「退きなさい!」
 『それは不可能です。――出力を戦闘レベルまで上昇開始』
 ネーブラを無視して、エピメテウスの大群は再び進軍を開始した。駄目だ、行かせてはいけない。そもそもこの私を無視しようなんて腹立たしいにもほどがある。
 しかし、追跡しようとしたネーブラをヒドルンの銃撃が襲った。ガトリング砲の砲身が回転。ドドドドッ! というくぐもった発射音が絶え間なく連続して、伊織は舌打ちしてどう行動するべきか考える。
 重力殻で守られている以上、ヒドルンの銃撃は意味を成さない。実弾、光学兵器を無効化するIDOL相手では、重力殻に干渉できる距離ならいざ知らず、有効的な攻撃を加えることはできないだろう。ここは無視してエピメテウスの数を減らすべきだ。やよいと頷き合い、伊織はヒドルンに背を向けて、先行する敵部隊へと目標を定めた。
 吐き出され乱射される凶弾。重力殻が凶弾を防ぐ度に波打つような波紋を見せて。
 ――そして唐突に、重力殻を貫いた。
 「え、嘘っ!?」
 背中に弾痕を穿たれ、小規模な爆発をあげるネーブラ。
 もう少し上を狙われていたら、コックピットが蜂の巣になっていた。背骨に氷を詰め込まれたようなおぞましい震えが奔り、死んでいたかもしれない事実に視界がぐらりと歪んだ。
 何が起こったのか。重力殻は正常に作動しているし、だがそれならばヒドルンの射撃を無効化できるはずだ。それが、貫通した。カラクリは不明だが、事実としてネーブラはヒドルンに向き合わざるを得なかった。砲口はネーブラを完全にロックしており、動けば発砲を許すこととなる。次に撃たれれば、再び重力殻を超えてくるだろうか?
 トゥリアビータの本隊が遠ざかっていく。鉄壁を自負していたはずの防衛線が、たった一機の正体不明機に掻き乱されてしまった。先にはテンペスタースがいるとはいえ、ここで止められなかったのは大きな痛手である。
 とにかく、早くこいつをなんとかして、追わなければ。思考をヒドルンに集中。周囲にはヒドルンを囲んで数体のエピメテウスが浮遊している。手の内が明らかになっていない相手に、多勢に無勢は厳しいだろう――が。
 結局は全滅させるのだ、同時に相手にしてやろう。
 「そうよ、あんた達の遊び相手をしてる暇なんてないんだから!」
 『目標、行動を開始。迎撃します』
 戦闘開始。ネーブラ=全力加速。ヒドルン=不動。代わりにガトリングの砲身が高速回転し、弾丸が射出の火炎を燃やしながら、ネーブラを狙って撃ち出された。
 距離を詰めるネーブラは、ボディを軸線に一回転し、ヒドルンの斜めを横切る形で交差する。間合いへの侵入を頑なに拒む敵。苛立ち。腹いせにエピメテウスの一機を狙い加速に載せて蹴撃、頭部を潰しその反動を利用することで勢いを殺す。
 重装備故だろうか、ヒドルンの動きは緩慢だ。縦横無尽に空間を往くネーブラと違い、一箇所に留まって武器を斉射する戦闘スタイルは、頑強な要塞を思わせる。
 ……だからこそ、速度で圧倒するネーブラには当たらない!
 本来ならば搭乗者の首を折る殺人的Gも、慣性制御で保護されたマスターは悠然とこなしてみせる。最新鋭戦闘機でも到底真似できない高速旋回、否、瞬間旋回でヒドルンの背後へと回ったネーブラは、死角から拳を突き入れる――!
 がぎぃんっ! という音を響かせて干渉し合う重力殻。
 「うう、硬いですぅ!」
 「ホント、なんて強度……!」
 慣性制御を攻撃に転用すれば、エピメテウス程度なら防御の上からでも強引に捻り潰すこともできるのに、この重力殻ときたら、拳ごと跳ね返さんばかりの硬さだ。
 「こうなったらもう一発サービス!!」
 右腕に加え、左腕にも慣性制御を集中。両腕を振り被って一点集撃を打ち鳴らす。さすがのヒドルンもこれには堪えたか、ぎぎぎっと歪な音をたてて首だけで振り返るが、この状態では体勢を立て直すこともできまい。
 このまま押し切る、と操縦桿を更に強く押し込んだ伊織は、
 『――ターゲットロック』
 その黄色い単眼が、顔の中心で怪しく点滅したのに気づいた。
 巨大なドラム缶と評した背部の筒の、表面装甲が縦から割れてスライドする。中から現れたのはびっしりと並べられた発射口。まさか、と伊織の表情が引き攣ったと同時に、発射口から大量のミサイルが上方に向かって射出された。白線を引いて太陽へと伸びるミサイル群。やがて、蝋の翼を折られたイカロスのように、ネーブラへと降り注いだ。
 ガトリング砲の件もある。ミサイルにも特殊加工が施されている可能性を考慮して、ネーブラは慣性制御を防御に回しながら回避行動に移った。なおも追い立てるミサイルに、空間ごと移動するような壮絶な機動。しかし何発かが重力殻に着弾する。
 そこで伊織は妙なものを見た。ミサイルが爆発しないのだ。重力殻に拒まれているミサイルは、後部から火を噴きながら目標に迫ろうとして。――本性を顕わにした。
 ミサイルの先端部は凶暴な鳥類の嘴にも似た形状をしている。嘴の周囲が蜃気楼の如く歪んだと思うと、重力殻に張り付いた無数のミサイルから先端部が射出された。勢い良く飛び出した先端部は重力殻をわずかに切り裂いて貫通。内部にほんの少し顔を覗かせた程度だったが、けれどそれだけで十分だった。
 貫通した嘴は全て、内側で爆発してみせたのだから。
 「細工が過ぎるわよ……!」
 球状の防御膜である重力殻に守られているIDOLは、装甲そのものは惰弱である。通常兵器に絶対的な優位性を持つIDOLだが、逆を言えば、重力殻がなければその防御性能は紙同然。ヒドルンの装備している武器は、IDOLの優位性を打ち消すことに特化されているのだろうと、伊織は推測を立てる。
 言うなれば対IDOL兵器。やはりヴェルトールと同種の機体で間違いない。
 爆発がネーブラを飲み込み、駆け抜ける衝撃がコックピットを揺さぶる。地震の震源地に立っているかのような揺れに、否応なく呻き声が漏れてしまう。レッドアラートがうるさく鳴り響き、現状が如何に危険かを告げていた。
 装甲が砕け、ひび割れ、慣性制御すら失って地上に落下していくネーブラ。
 「あの赤褐色の新型、私達にとって天敵同然じゃない!」
 「装甲負担四〇パーセント超えます。伊織ちゃん、このままじゃ大変だよ!」
 「そんなこと言われなくても! ネーブラ、もう少しがんばって!」
 落下する巨人は、伊織の激励に応えて再び重力殻を展開した。中空にて地に足を向け、ノズルを噴かせて落下から開放、尚も見舞われる銃弾の嵐の間を縫うように飛び抜ける。
 状況は悪い方向へ転がり続けるばかりだ。今の攻撃で足の駆動系とノズルをやられてしまった。機動力は減少。推進力のほぼ全てを脚部に集中しているIDOLの構造上、複雑な動きも、あとどれくらい持つだろうか。
 おまけに敵の数は一向に減らない。数体でゴリ押されたら、いくらネーブラとはいえひとたまりもないだろう。
 「本当に厄介な!」
 前方、爪を振り上げたエピメテウスの顔面を力の限り殴り飛ばした伊織は、悪態を吐いてヒドルンを睨みつけた。弾丸のバーゲンセールとでも言うように惜しみない連射は、ネーブラをしつこく狙ってきている。とにかく奴に近づかなければ。ヴェルトールのように遠距離武装を持たないネーブラは、結局のところ近接戦に持ち込まなければ勝ち目がない。
 もう悩んでいる暇はない。ならば、
 「多少無茶してでも一撃当てる! でしょ、伊織ちゃん?」
 「ふんっ、その通りよ。ええ、こんなところで手を拱いてらんないのよ! この伊織ちゃんを怒らせた罰、ちゃんと身体に刻んでもらうわよメタボIDOL!!」
 伊織は自分と敵の位置をレーダーで確認。手短な二体に目星を付けると、その唇をにやりと歪ませた。その場に宙がいたらこう言っただろう。小悪魔の微笑み、と。
 回数制限付きとなった全力機動を使ってエピメテウスの一機に肉薄。頭部を潰して戦闘力を奪うと、続けてもう一機エピメテウスを捕獲。捕獲した機体を両手で掲げると、ネーブラはそのまま、ヒドルンに向かってノズルを全力噴射した。ゴォッ! と巨体が風を切る。
 弾丸がネーブラを仕留めんと連射されるが、放たれた攻撃は全てエピメテウスの盾に阻まれて当の目標には届かない。射撃に晒されて四肢を跳ね続けるエピメテウスが哀れに思えてくるほど、容赦なく使い捨てる伊織は、もはや小悪魔どころか悪魔の如き悪役染みた形相を浮かべてフットペダルを踏み続ける。
 「伊織ちゃんやり過ぎだよぉ!!」
 「あはははははははは、この伊織ちゃんに楯突こうなんて百億年早いのよ!!」
 ハイなマスターはさておき、伊織の取った行動は、実はかなり有効な手段であった。
 ヒドルンの有する対IDOL兵器は、重力殻を無効化するという点において絶大な効果を発揮しているが、それ以外は通常兵器となんら変わりはない。ガトリング砲から吐き出される弾丸の威力では、エピメテウスを貫いてネーブラにダメージを与えるほどには至らないのである。
 片方、もうズタボロで使い物にならないエピメテウスを、ポイ捨てよろしく投げ捨てたネーブラ相手に、ヒドルンは背部のミサイルを発射した。
 ミサイルの破壊力ならばエピメテウス諸共粉々にできると踏んだのだ。重力殻に頼れないネーブラはともかく、ヒドルンは己の重力殻により無傷で済む。その時点で、ヒドルンはそう判断していた。
 距離が近い。その不安要素だけを残して。
 ミサイル、ネーブラの眼前に迫る。
 「これだけ近ければ十分よ!」
 惚れ惚れするほど綺麗な投球フォーム。片手に残ったエピメテウスを、ミサイルが集中する地点に向かって大きく振り被って投げた。本日二度目のエピメテウス投擲の記録は、複数のミサイルを空中で爆発されることに成功した。爆発は連鎖的に繋がり、巨大な火の大輪を咲かせてネーブラとヒドルンの間を赤く染め上げる。
 これで良い。この至近距離の爆発は、しかしヒドルンを倒すには至らないだろう。だが爆発させた目的は直接的なダメージにあらず。ネーブラのレーダーは、爆炎の影響で一時的に使用不可になっている。視界は塞がれ、熱源探知も炎熱で誤魔化されている。
 条件は相手も同じはずだ。例えヒドルンが無人機であろうと、両機はわずかの間相手の位置を知る術を失った。
 ここからは賭けだ。伊織はヒドルンの正面――だと思わしき方向に向かってネーブラを進行させた。爆炎の中を突っ切り、ヒドルンに奇襲を仕掛けることができればこちらの勝ち。もし失敗したら、盾を失ったネーブラは蜂の巣だ。
 運命も未来も天のみぞ知ると言うが、伊織はそれが大嫌いだった。神様とやらは知っていて自分は知らない明日なんて、そんなものは自分のものじゃない。己の運命も未来も、自分の努力で掴んでこそ意味を成す。故に、伊織は神頼みなんかしない。直感を信じて、ただ勝つことに自分の誇りを賭けて爆炎を裂いて進む。
 一瞬、ぶわっ! と空気が弾けて、爆発の境界を抜けた。果たして、賭けは――。

 目の前、“標的を見失って無防備となった”ヒドルンの姿がある。

 「勝った!!」
 勝ち鬨をあげて両腕を広げるネーブラに、少し遅れてヒドルンが反応する。だがもう間に合わない。速度を落とさずヒドルンに突撃した伊織は、ネーブラの装甲が軋む音を聴きながらも、ジェットノズルを全力噴射。敵を抱きかかえたまま、地面に向かって急降下する。
 雪に覆われた大地が見る見る内に迫った。それでも決して怯みはしない。視界に広がる大地と接触する数秒前、伊織とやよいは、衝撃に備えて歯を食い縛り、次の瞬間。
 積雪を巻き上げながら鈍音を響かせて、二機は白い地上へ落下した。
 ――わずかな空白。最初に動いたのは、ネーブラだ。ヒドルンを下にして激突したため、衝撃はあちらの方が絶大的に大きい。ヒドルンを上から踏みつける形でマウントポジションを取ったネーブラは、慣性制御を右腕に集中。IDOLが持つ一撃必殺の技法=トリークハイトブレッヒャーを放たんと狙いを定めた。
 ヒドルンは墜落の衝撃と、ネーブラに踏みつけられていることでまともに動けない。右腕のガトリング砲もさることながら、ミサイルポッドもここまで密接した状況では諸刃の剣だ。
 これで勝利。伊織はそう確信した。そして――。
 『胸部装甲、開放』
 情緒の欠片もない機械的な音声と共に、まさに狙いを定めていたヒドルンの胸部装甲が変形、スライドし、その奥から四角い“銃口”を覗かせた。
 伊織はそれを知っている。だって、これは。
 それは銃口周辺を歪ませると、無色の重力塊を生み出して、
 「嘘っ……アルツァヒール!?」
 刹那、滅びの雷が地から天に向かって落ち、二機を飲み込んで周囲が爆散した。



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